【おすすめ】山本周五郎の全作品を一覧であらすじを紹介します

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山本 周五郎 やまもと・しゅうごろう(1903年6月22日 – 1967年2月14日)

小説家。山梨県大月市初狩町下初狩生まれ。横浜市の西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む。1926年4月『須磨寺附近』が「文藝春秋」に掲載され、文壇出世作となる。1943年、『日本婦道記』が直木賞に推されたが、受賞を固辞した。

おすすめ作品ランキング

長い記事なので、先におすすめランキングを紹介します!

  • 1位:さぶ
  • 2位:樅ノ木は残った
  • 3位:青べか物語

作品年表リスト

※山本周五郎の作品の場合、初刊本は絶版になっており、現在は再構成された文庫で刊行されています。

この記事では現在手に入りやすい文庫に合わせて紹介しています。

そのため、短編集の場合は表題作の発表年でまとめています。初刊本の発売年月とは必ずしも一致しませんのでご注意ください。

廣野の落日 (1920年)

明和絵暦 (1934年)

尊皇学者・山県大弐の影響をうけ、藩の進むべき道をめぐって対立を深める小幡藩の青年藩士たち。そして兄と許嫁とが敵味方に分かれることになった時、八千緒は……。大弐と苦難をともにする若者たちをとおし生涯のテーマ〈人間の真価は何を為したかではなくて、何を為そうとしたかだ〉を追究。若き周五郎が娯楽小説作家としても第一級の腕前であることを証する二作目の新聞小説。

児次郎吹雪・おたふく物語(1937年2月)

下町の姉妹を描いた時代小説〈おたふく〉三部作を完全収録。他に、婦道小説の初期傑作「児次郎吹雪」などを収録する傑作短篇集。

おもかげ抄(1937年7月)

何をするにも妻のことを最優先にする「甘次郎」と呼ばれる浪人の孫次郎。梶派剣術の使い手でもある彼は、ある日、多勢に無勢で追い込まれた武士を助太刀する。その縁から剣術指南として召し抱えられることになるが……。

孫次郎の告白と、妻への思いを哀切を込めて綴った表題作「おもかげ抄」、流行の変化と職人気質の間に苦悩する男をあたたかく受け入れる家族を描く「ちゃん」、吝嗇家として町内でも噂される母親とその子ども達が必死になって働き続ける理由は……。本当の優しさとは何か、その問いに向き合い描かれた「かあちゃん」など、さまざまな家族の姿をとおし、それぞれの愛のかたちを浮かび上がらせる感動の七篇。

風雲海南記(1938年)

四国西条藩主の家系でありながら双子の弟に生まれた英三郎は、七歳で浅草の寺に預けられる。英三郎は市井の浪人として成長するが、思いがけない偶然の重なりから、知らず知らずのうちに西条藩の御家騒動に巻き込まれる。その中で英三郎は己の出自を知り、騒動を操る藤巻右京と大老・酒井雅楽頭に闘いを挑んでゆく。戦時中に刊行され、戦後長く埋もれたままとなっていた幻の大作。

美少女一番乗り(1938年4月)

飛騨と信濃の国境、摩耶谷の山中。お弓は、父親を殺した掟破りの敵陣に馬上に薙刀を執って斬り込んだ(「美少女一番乗り」)。主君の遺言書を命がけで守る中小姓・数馬。武家の家督を巡る兄妹の選択(「和蘭人形」)。上杉景勝一万石の重臣・左内は、大変な倹約家。切り詰めすぎる生活に陰口が飛ぶが、その真意が明かされる(「戦国会津唄」)。冒険、活劇、勇気、友情、ロマン、哀歓を人間の成長と共に描く名作短篇集、全10篇。

酔いどれ次郎八(1938年8月)

朝顔草紙(1938年10月)

顔も見知らぬ許婚同士が、十数年の愛情をつらぬきとおし、藩の奸物を討って結ばれるまでを描いた『朝顔草紙』。徳川四天王、本多平八郎と同姓同名の臆病な青年武士が、戦場で名乗りをあげるたびに敵の第一目標とされ、あわてて逃げ出すという滑稽な設定の『違う平八郎』。いずれ劣らぬあわて者同士主従の不思議な心の通いあいを描いた『粗忽評判記』。ほかに『義理なさけ』など全12編。

安政三天狗(1939年1月)

鵜殿甲太郎は、吉田松陰の密命を帯び、尊皇討幕運動のさきがけとして陸奥に向かった。さらにもう一つの使命も託されている。甲太郎を仇として追う弟妹、同じく隻眼の少年剣士金太、さらに歴史を裏から操る山奥の謎の民巨勢一族。国難を打開する“資金”をめぐり、波瀾万丈の展開が…時局への抵抗も読み取れる長篇。

奇縁無双(1939年9月)

「下郎、待て! 」。来栖伊兵衛は後方から馬を煽り、泥を浴びせた無礼な乙女に平手を見舞った。だがこの乙女、なんと主君が溺愛する五女、万姫だったのである。

薙刀と小太刀にすぐれ、男勝りの気性と目も覚めるような美貌で鳴らす万姫は、伊兵衛に”戦い”を挑んでくる。万姫の攻撃に翻弄される伊兵衛。

しかしある事件を機に二人の関係は一変する!!周五郎流『じゃじゃ馬ならし』ともいうべき痛快ロマンの表題作を含む傑作短篇集。

春いくたび(1940年4月)

江戸末期、戦地に赴く信之助を泣きそうな顔で見送る香苗。再会の願いも空しく時は過ぎ、尼僧になった香苗は救護院に流れ着いた老人の姿に息を呑む(「春いくたび」)。貧にして餓死するは武士の本懐なり。亡父の教え通り、最後の一夜を迎える兄妹。しかし、そこに突然激しい剣の音が(「武道宵節句」)。昭和の少年少女のために、山本周五郎が心とことばを尽くした短篇の中から時代小説10篇を収録。

松風の門(1940年10月)

幼い頃、剣術の仕合で誤って幼君の右眼を失明させてしまった俊英な家臣がたどる、峻烈な生き様を見事に描いた“武道もの”の典型「松風の門」、しがない行商暮しではあるけれども、心底から愛する女房のために、富裕な実家への帰参を拒絶する男の心意気をしみじみと描く“下町もの”の傑作「釣忍」、ほかに「鼓くらべ」「ぼろと釵」「砦山の十七日」「醜聞」など全13編を収録する。

夜明けの辻(1940年12月)

江戸中期の尊皇論者、山県大弐と出会ったことから藩の内紛にまきこまれた二人の青年武士の、友情の破綻と和解までを描いた初期の中編『夜明けの辻』。元芸妓との結婚を望んだ若侍が、頑固一徹の国家老の伯父を説得するために機略に富んだやり取りをくりひろげる“こっけい物”の佳品『嫁取り二代記』。ほかに『平八郎聞書』『』など、山本周五郎の文学的精進のあとを伝える全11編。

与之助の花(1941年5月)

ふとした不始末からごろつき侍にゆすられる身となった与之助が、思いを寄せていた娘から身を引き、ごろつきを斬って切腹するまでの心の様を描いた表題作。わがままで武術自慢の藩主の娘を、一介の藩士が無遠慮にこらしめる「奇縁無双」。維新戦争に赴いた恋人の帰りを40年間も待つ女心を哀切に謳った「春いくたび」。ほかに「一代恋娘」「友のためではない」など全13編を収める。

戦国武士道物語 死處(1941年)

昭和16年に執筆され、戦後の混乱期の中、未発表のまま保管されていた短篇小説「死處」。77年ぶりに発見された本作を収録した小説集、遂に刊行! 表題作「死處」のほか、伊達家先方隊として山中を進む武士たちとそれを追う女の恋を描く名作「夏草戦記」、戦場で手柄を立てない良人とその本当の姿を知る妻を心の繋がりを哀切深く描いた「石ころ」など、動乱の世に生きた人々の生き様を通し、人の在り方を問う全篇名作時代小説集

人情武士道(1942年)

御用人の佐藤欽之助は、妻を通して琴の稽古友達だった女から、夫の仕官の世話を頼まれる。その女が、かつて縁談を申し込んで断られた和枝であることを知った欽之助は、思いがけない行動で依頼を果たす……。

著者の鋭い人間観察眼を際立たせている表題作の他に、後年の“職人もの”の先駆をなす「しぐれ傘」や“滑稽もの”の「竜と虎」など、初期の傑作12編を収める。“現代もの”2編を含む。

日本婦道記 (1942年)

妻が死んだ。久方ぶりにその手を握り、はっとする。酷く荒れていた。金銭で困らせたことはなく、優雅な生活を送っているとばかり思っていたのに、その手は正に働く女の手であった――(「松の花」)。厳しい武家社会の中で家族のために生き抜いた女性たちの、清々しいまでの強靱さと、凜然たる美しさや哀しさが溢れる三十一の名編。

新潮記(1943年)

高松の松平家は水戸の徳川家と互いに養子を交換する本枝不離の関係にあったが、水戸藩が幕末動乱の策源地となるとともに藩内は尊皇佐幕に二分される。高松藩の尊皇派の中心人物の庶子である早水秀之進は、その生まれのゆえに屈折し、文武に秀でているにもかかわらず時流を冷ややかに眺めるだけであったが、水戸藩への密使に立ち、生死の間をくぐりぬけることで己れのなすべき事を悟る。

髪かざり(1944年1月)

太平洋戦争中から終戦直後にかけて、著者は〈日本婦道記〉と題した短編を発表し続けた。初期の代表作となったこのシリーズには、未曾有の非常時にあって、古来、戦場の男たちを陰で支え続けてきた日本の妻や母たちの、夫も気づかないところに表われる美質を掘起こしたいとの願いが込められていた。本書には、「忍緒」や「二粒の飴」など、文庫未収録の本シリーズ作品のすべて、17編を収録。

一人ならじ(1944年9月)

合戦の最中、敵が壊そうとする橋を支える丸太がわりに自分の足を使い、片足を失う『一人(いちにん)ならじ』。敵の武将を倒しても首級(しるし)を掻き取ることをせず、すばやく次の敵を求めて前進する『石ころ』。ほかに『三十二刻』『殉死』『さるすべり』など、名を求めず、立身栄達も望まず、黙々としておのれの信ずる道を生きる無名の武士たちとその妻の心ばえを描いた“武家もの”の傑作全14編を収める。

菊月夜(1944年11月)

四年間の江戸詰めの間に許婚・小房の父が狂死し家族は追放されるという運命に遭った信三郎が、事件の決裁に疑問をいだいて真相をさぐり、小房と劇的に再会するまでを描いた「菊月夜」。周五郎が年少の読者に向けて、母の愛とは何かを感動的に語りかけた「花宵」「おもかげ」。ほかに「柿」「一領一筋」「蜆谷」や、名作「青べか物語」の原型となった「留さんとその女」「蛮人」など全10編。

生きている源八(1944年12月)

どんな激戦に臨んでもいつも生きて還ってくるために、臆病者とさえ誤解されながら、なおも生きつづける兵庫源八郎。その細心にして豪胆な戦いぶりに託して、“玉砕”が叫ばれていた太平洋戦争末期に作者の信ずるところを強く打ち出した〈日本士道記〉シリーズの表題作。かけ違った恋に衝撃を受けつつも、剣の道を貫く『藤次郎の恋』。ほかに『立春なみだ橋』『豪傑ばやり』など全12編。

ならぬ堪忍(1945年4月)

城代家老の“御意討ち”を命じられた新八郎は、直(じか)に不正を糺すが、逆に率直な説明を受け、初めて真実を知る。世間の風聞などは信を置くに足らぬと説いた著者の人間観が現れる『宗近新八郎』。藩の“家宝”が象徴する武家の権威を否定して“人間第一主義”を強調する『浪人走馬灯』。生命を賭けるに値する真の“堪忍”とは何かを問う『ならぬ堪忍』など戦前の短編全13作を収める。

白石城死守

戦地へと向かった伊達軍、その留守を狙い、白石城は上杉の猛攻を受ける。主君・政宗の命は「攻撃を受けた際にはすみやかに岩手沢に撤退せよ」というものだったが、浜田治部介と家来五十一騎は、籠城に出る……。なぜ主君の命に背いて籠城をするのか。表題作「白石城死守」のほか、五篇を収録。命を賭して己の意義を貫く生き方を端正な言葉で描き出した傑作。

柳橋物語 (1946年)

本当に好きな人と、慎ましく暮す幸せ。幼い恋心で男との約束を交わしたおせんは、過酷な運命に翻弄される。おせんを愛する幸太は、命をかけて彼女を守り抜く(『柳橋物語』)。周囲の愛情に包まれ何不足なく育ったまきに降りかかった夫の裏切り。密かに慕う直吉は愚直なまでにまきに尽くすが(『むかしも今も』)。一途な愛の行方を描く、下町人情溢れる感動の傑作二編。

忍術千一夜(1948年2月)

強欲な庄屋らに騙されすべてを失った八百助は、山の神へ捻じ込みにいき、職務怠慢をなじった挙げ句、祠を燃やすと恫喝。

恐れおののいた山の神より”思うことは何でもかなう力”を手に入れる。自らにかけた忍術で目も覚めるような美丈夫に変身した八百助は、色と欲に目が眩んだ世間に痛快な復讐劇を仕掛けていく。

巧みな筋運びと驚愕のオチはさすが周五郎!の表題作を含む傑作短篇集。

寝ぼけ署長 (1948年)

五年の在任中、署でも官舎でもぐうぐう寝てばかり。転任が決るや、別れを悲しんで留任を求める市民が押し寄せ大騒ぎ。罪を憎んで人を憎まず、“寝ぼけ署長”こと五道三省(ごどうさんしょう)が「中央銀行三十万円紛失事件」や「海南氏恐喝事件」など十件の難事件を、鋭い推理と奇抜な発想の人情味あふれる方法で次々解決。山本周五郎唯一の警察小説。

人情裏長屋(1948年)

居酒屋でいつも黙って一升枡で飲んでいる浪人、松村信兵衛の胸のすく活躍と人情味あふれる子育ての物語『人情裏長屋』。天一坊事件に影響されて家系図狂いになった大家に、出自を尋ねられて閉口した店子たちが一計を案ずる滑稽譚『長屋天一坊』。ほかに『おもかげ抄』『風流化物屋敷』『泥棒と若殿』『ゆうれい貸屋』など周五郎文学の独壇場ともいうべき“長屋もの”を中心に11編を収録。

花匂う(1948年7月)

幼なじみの多津が嫁ぐ相手には隠し子がいる。それを教えてあげようとして初めて、直弥は自分が多津をずっと愛していたのだと気づく。そうであるからには隠し子のことは告げるわけにはいかない。中傷になるから……。その後の二人のたどる歳月を通し、人生の深い味わいを感動的に語りかけた「花匂う」。ほかに「矢押の樋」「愚鈍物語」「椿説女嫌い」「蘭」「渡の求婚」など全11編を収める。

楽天旅日記 (1950年)

大吉田藩七十万石の正嫡順二郎は、四歳の時、側室一派の陰謀によって廃嫡され、国許で幽閉同然の生活を送る。ところが、二十四歳になった時、世継ぎとされていた側室の子が突然死亡し、順二郎は隠密裡に江戸表へ迎えられる事になるが……。お家騒動の渦中に投げ込まれた世間知らずの若殿の眼を通して、現実政治に振り回される人間たちの愚かさとはかなさを諷刺した長編小説。

山彦乙女 (1951年)

武田家再興――百三十余年にわたる悲願に翻弄される甲州甘利郷のみどう一族。江戸の新御番、安倍半之助は甲府勤番中に失踪した叔父の遺品を調べるうち、叔父を狂気へと導いた武田家の莫大な遺産をめぐる「かんば沢」の妖しい謎のとりことなり、己れもまた甲州へと出奔してゆく。著者の郷里甲州の雄大な自然を舞台に謳いあげた、周五郎文学に特異な位置を占める怪奇幻想の大ロマン。

火の杯 (1951年)

日本最大の財閥、御池家の庶子、康彦は財閥解体からのがれるための生け贄として、別人に仕立てられて公金拐帯の罪をきせられて、最後には生命までも奪われようとする。出生の秘密にまつわるニヒルな性格から、過酷な指令をただ受け入れているだけの康彦であったが、かつて自分の愛した奥勤めの娘の献身的な愛によって運命に立ち向かうようになる。山本周五郎が戦後の現実に挑んだ意欲作。

風流太平記 (1952年)

紀州徳川家がイスパニアから武器を密輸して幕府転覆をはかっているらしい――前代未聞の大陰謀を解明すべく奔走をはじめた兄たちによって花田万三郎は長崎から江戸に呼びもどされる。しかし、人間への思いやりにあふれ、彼を慕う二人の女性の間で翻弄される万三郎は、事件解明第一の兄たちに叱られてばかり。独特の人間観をにじませながら、波瀾万丈の剣劇をくりひろげる長編小説。

雨の山吹(1952年9月)

乳呑み児をかかえた家来と出奔した妹を斬るために遠国まで追っていった兄は、みじめな境遇におちながらも小さな幸福にすがって生きる妹一家と出会う。静かな結末の余韻が深い感動を呼ぶ表題作。逆境に生きてきた勝ち気の芸者と藩政改革の矢面に立つ若侍との障害をこえた愛「山茶花帖」。ほかに「恋の伝七郎」「いしが奢る」など、武家社会のさまざまな愛の形を中心に10編を収める。

栄花物語 (1953年)

徳川中期、農村が疲弊し、都市部の商人が力を持ち始めた転換点。老中首座の重責を担う田沼意次には、貧民を虐げる血も涙もなき重税、汚濁にまみれた賄賂政治と非難と悪罵が降りかかる。

――悪政の動かぬ証拠を掴むため、反田沼派より勘定方に送り込まれた河井保之助だったが、調べれば調べるほど、田沼の重商主義的政策や農地拡張のための印旛沼手賀沼の干拓事業には道理があり、しかもなんの不正の痕も出てこない。

やがて、田沼暗殺の実行者の一人として動くよう指示される。保之助の友人青山信二郎はさる筋からの指令で、田沼の政治を取り上げて根拠のない悪口雑言を流布させ続けていたが、原稿を押さえられ、江戸城への出頭を命じられた。

田沼に会ってみると、見事な人物であった。信二郎は筆を断ち、追われる身となる。将軍家治の鷹狩りの折に、ふた組の暗殺者が田沼の命を狙っていることを聞きつけた信二郎は、意を決して田沼意次の中屋敷を訪ねる……。

まったく新しい視点から、絶望の淵にあっても、孤独に耐え、改革を押し進めた田沼意次という不屈の人間像を、時流に翻弄される男女の諸相を通して描く歴史名編。文字を大きく組み直し、カバーを新装し、主要登場人物一覧と注解を付した新編集でお届けする。

正雪記 (1953-54年、1956年)

立身出世を夢見て、一介の染屋職人の伜から、侍になる野望を抱き江戸へ出奔した由井正雪は、その明晰な頭脳を武器に島原の乱で浪人たちの衆望を集める。浪人隊を結成し、幕府軍の先鋒に使うことを進言する。しかし知恵伊豆・老中松平信綱の狡猾な罠が待っていた……。支配権力への抑えがたい怒りを胸に、徳川のゆるぎない天下に挑んだ巨人を正面から見つめた本格歴史長編。

扇野(1954年1月)

枯野の襖絵に点睛を加えるために、初めて会った芸妓に野原で扇を落させる流れ絵師。その後の二人の道行きと、その陰で力をつくす女のまごころを鮮やかに写し取った『扇野』。“三十ふり袖、四十島田”のたとえに流れる女の哀しみを、下町の人情と善意で救った『三十ふり袖』。なにげない会話や独白のなかに男女の機微と人生の深い意味を伝える“愛情もの”の秀作全9編を収録する。

樅ノ木は残った (1954-58年)

仙台藩主・伊達綱宗は幕府から逼塞を命じられた。放蕩に身を持ち崩したからだという。明くる夜、藩士四名が「上意討」の名の下に次々と斬殺される。疑心暗鬼に陥り混乱を来す藩政に乗じて権勢を増す、仙台藩主一族・伊達兵部と幕府老中・酒井雅楽頭。その謀略を見抜いた宿老の原田甲斐はただひとり、藩を守る決意をする。

艶書(1954年)

宵節句の宴で七重は隣家の出三郎の袂に艶書を入れる。しかし、部屋住みでうだつがあがらないと思っている出三郎には、それが誰からのものかわからないまま、七重は他家へ嫁してゆく。廻り道をしてしか実らぬ恋を描く「艶書」。愛する男を立ち直らせるために、自ら愛着を断つ女心のかなしさを謳った「憎いあん畜生」。著者が娯楽小説として初めて世に問うた「だだら団兵衛」など全11編。

四日のあやめ(1954年7月)

日日平安(1954年7月)

織田裕二主演の映画『椿三十郎』の原作「日日平安」を収録。無一文の浪人・菅田は、“切腹のマネ”をして通りすがりの男に飯を乞うがあえなく失敗……。しかし、この通りすがりの男、なにやら騒動を抱えている。聞くと、仲間9人で悪徳政治を行う家老らへの斬り込みを企てていた。これはいいツルだ……!! 菅田は仲間入りを志願。狙うはもちろん礼金! だったのだが……。無一文の空腹浪人の活躍をユーモラスに描く表題作をはじめ、ヒューマニズムあふれる名作全11編。「粋」が伝わってくる、時代小説初心者にもオススメの一冊!

花も刀も(1955年1月)

没落した家運を剣によって再興しようと淵辺道場に入門した平手幹太郎(造酒)は、稽古おさめの試合で筆頭代師範を破るが、その夜、破門を命じられる。強い自負心と出世への野望を秘め、酒も飲まず女遊びもせずに剣ひと筋に励みながら、その努力が空回りし、ついには意味もなく人を斬るまでの失意の青春を描く『花も刀も』。ほかに『枕を三度たたいた』『源蔵ヶ原』など全8編を収める。

大炊介始末(1955年3月)

自分の出生の秘密を知った大炊介が、狂態を装って藩の衆望を故意にうらぎらねばならなかった悲劇を描く表題作。自分たちはおたふくであるときめこんでしまっている底抜けに明るく情味豊かな姉妹の物語「おたふく」。奇抜な視点と卓抜な文体で「剣聖」宮本武蔵を描き、著者の後半期の出発点となった意義深い作品「よじょう」など。さまざまな傾向の短編から代表作10編を選りすぐった。

あんちゃん(1956年)

妹に対して道ならぬ行為をはたらき、それを悔いてグレていった兄の心の軌跡と、思いがけぬ結末を描く『あんちゃん』。世継ぎのいない武家の習いとして、女であるにもかかわらず男だと偽って育てられた者の悲劇を追った『菊千代抄』。ほかに『思い違い物語』『七日七夜』『ひとでなし』など、人間をつき動かす最も奥深い心理と生理に分け入り、人間関係の不思議さを凝視した秀作八編を収録。

逃亡記(1956年5月)

突如、命を狙われた武士とそれを助ける女。男が明かされた自らの素性と軍用金を巡る藩内の権力闘争。大きな渦に巻き込まれた武士は……。表題作にして名作「逃亡記」、南町奉行所を舞台に、左官職人を殺めた罪で投獄された女の取り調べを行うなかで浮かび上がる深川・しじみ河岸に生きる人々の姿を鮮烈に描く「しじみ河岸」など。市井に生きる人々の息づかい、生活、そして生き様を活写した名手の筆が光る江戸ミステリの傑作六篇。

深川安楽亭(1957年1月)

抜け荷(密貿易)の拠点、深川安楽亭にたむろする命知らずの無頼な若者たちが、恋人の身請金を盗み出して袋叩きにされたお店者に示す命がけの無償の善意を、不気味な雰囲気をたたえた文章のうちに描いた表題作。完成されたものとしては著者最後の作品となった「枡落し」。ほかに「内蔵允留守」「おかよ」「水の下の石」「百足ちがい」「あすなろう」「十八条乙」など全12編を収録する。

花杖記(1957年9月)

何者かによって父を殿中で殺され、家禄削減を申し渡された加乗与四郎が、事件の真相をあばくまでの記録『花杖記』。どんな場合も二の矢を用意せず、また果し合いにもあえて弱い弓を持ってのぞむ弓の達人の物語『備前名弓伝』。ほかに『武道無門』『御馬印拝借』『小指』『似而非物語』など、武家社会の掟の中で生きる武士たちの姿に、永遠に変らぬ人間の真実をさぐった作品10編を収録。

ちいさこべ(1957年11月)

江戸の大火ですべてを失いながら、みなしご達の面倒まで引き受けて再建に奮闘してゆく大工の若棟梁の心意気がさわやかな感動を呼ぶ表題作、藩政改革に奔走する夫のために藩からの弾圧を受けつつも、真実の人間性に目を見ひらいてゆく健気な女の生き方を描く『花筵』、人間はどこまで人間を宥しうるかの限界に真正面から挑んだ野心作『ちくしょう谷』など、中編の傑作4編を収録する。

赤ひげ診療譚 (1958年)

幕府の御番医という栄達の道を歩むべく長崎遊学から戻った保本登は、小石川養生所の“赤ひげ”と呼ばれる医長新出去定に呼び出され、医員見習い勤務を命ぜられる。貧しく蒙昧な最下層の男女の中に埋もれる現実への幻滅から、登は事あるごとに赤ひげに反抗するが、赤ひげの一見乱暴な言動の底に脈打つ強靱な精神に次第に惹かれてゆく。傷ついた若き医生と師との魂のふれあいを描く快作。

五瓣の椿 (1959年)

仇はきっとうちます。娘はそっと釵を忍ばせた。婿養子の父親は懸命に働き、店の身代を大きくした。淫蕩な母親は陰で不貞を繰り返した。労咳に侵された父親の最期の日々、娘の懸命の願いも聞かず母親は若い役者と遊び惚けた。父親が死んだ夜、母親は娘に出生の秘密を明かす。そして、娘は羅刹と化した……。倒叙型のミステリー仕立てで描く法と人倫の境界をとらえた傑作。

町奉行日記(1959年)

着任から解任まで一度も奉行所に出仕せずに、奇抜な方法で藩の汚職政治を摘発してゆく町奉行の活躍ぶりを描いた痛快作『町奉行日記』。藩中での失敗事をなんでも〈わたくし〉のせいにして、自己の人間的成長をはかる『わたくしです物語』。娘婿の過誤をわが身に負ってあの世に逝く父親の愛情を捉えた短篇小説の絶品『寒橋』。ほかに『金五十両』『落ち梅記』『法師川八景』など全10篇を収録。

彦左衛門外記(1959年)

身分のちがいを理由に大名の姫から絶縁された旗本、五橋数馬は奇抜な方法で出世を試みる。失意のうちに市井に隠棲していた大伯父の大久保彦左衛門をおだてあげ、戦記を捏造し、なき家康のお墨付きを偽造して天下の御意見番にしたてあげてしまう。それを侍、侠客、水野十郎左衛門たちが担ぎあげたために大騒動がもちあがる。諷刺と虚構を存分に駆使した奇想天外、抱腹絶倒の異色作。

やぶからし(1959年7月)

生れついての放蕩がやまずに勘当され、“やぶからし”と自嘲するような前夫のもとに、幸せな家庭や子供を捨ててはしる女心のひだの裏側を抉った表題作。美しい妹の身勝手さに運命を変えられた姉が、ほんとうの幸福をさがし求めるまでを抑制された筆でたどった『菊屋敷』。ほかに、『避けぬ三左』『孫七とずんど』『山だち問答』『「こいそ」と「竹四郎」』『ばちあたり』など、全12編を収める。

幕末物語 失蝶記(1959年10月)

佐幕、尊皇、攘夷――さまざまな思想が対立した動乱の幕末。桜田門外の変を水戸藩藩士の視点から描く異色作「染血桜田門」、長州征伐の中に起こった悲劇を描く「長州陣夜話」、戊辰戦争、甲州勝沼の戦いを描く傑作「米の武士道」や出羽国での新庄の戦いを舞台に勇敢な少女を主人公に描いた「峠の手毬唄」など、揺れる人心の中に変わらぬものとは何か? 生の在り方を見つめた作家が紡ぐ、傑作幕末短篇小説集。

天地静大 (1959年12月-)

倒幕に揺れ動く幕末、若者たちは国の為に何をすべきかを模索していた。そんな中、東北の一小藩出身の杉浦透は、世間の流れに惑わされず昌平黌に入学し、学問の道に専念することを決意する。一方、水谷郷臣もまた、藩主の弟という立場に悩みながらも、己に忠実な生き方をしようと努力する。時代の動乱に巻き込まれながらも、懸命に生きる若者たちを描いた青春群像劇。

青べか物語 (1960年)

根戸川の下流にある浦粕という漁師町を訪れた私は、沖の百万坪と呼ばれる風景が気に入り、このうらぶれた町に住み着く。言葉巧みにボロ舟「青べか」を買わされ、やがて“蒸気河岸の先生”と呼ばれ、親しまれる。貧しく素朴だが、常識外れの狡猾さと愉快さを併せ持つ人々。その豊かな日々を、巧妙な筆致で描く自伝的小説の傑作。

おさん(1961年2月)

純真な心を持ちながらも、女の“性”ゆえに男から男へわたらずにはいられないおさん――世にも可愛い女が、その可愛さのために不幸にひきずりこまれてゆく宿命の哀しさを描いた『おさん』。芸妓に溺れ込んでいった男が、親友の助力で見事に立ち直ってゆくまでを描いた『葦は見ていた』。“不思議小説”の傑作『その木戸を通って』。ほかに『青竹』『みずぐるま』『夜の辛夷』など全10編を収める。

季節のない街 (1962年)

“風の吹溜まりに塵芥が集まるようにできた貧民街”で懸命に生きようとする庶民の人生。――そこではいつもぎりぎりの生活に追われているために、虚飾で人の眼をくらましたり自分を偽ったりする暇も金もなく、ありのままの自分をさらけだすしかない。そんな街の人びとにほんとうの人間らしさを感じた著者が、さまざまなエピソードの断面のなかに深い人生の実相を捉えた異色作。

さぶ (1963年)

江戸下町の表具店で働くさぶと栄二。男前で器用な栄二と愚鈍だが誠実なさぶは、深い友情で結ばれていた。ある日、栄二は盗みの罪を着せられる。怒りのあまり自暴自棄になり、人足寄場に流れ着く栄二。人間すべてに不信感を持つ栄二をさぶは忍耐強く励まし、支える。一筋の真実と友情を通じて人間のあるべき姿を描く時代長編。

虚空遍歴 (1963年)

旗本の次男、中藤冲也が余技として作る端唄は、独得のふしまわしで江戸市中のみならず遠国でももてはやされた。しかし冲也はそれに満足せず、人を真に感動させる本格的な浄瑠璃を作りたいと願い、端唄と縁を切り、侍の身分をも棄てて芸人の世界に生きようとする。冲也の第一作は中村座で好評を博するが、すぐに行き詰り、妻も友をも信じられぬ懐疑の中にとじこめられてしまう。

ひとごろし(1964年10月)

藩中きっての臆病者と評判をたてられた若侍が、それを逆用し奇想天外な方法で誰も引受け手のなかった上意討ちを果すまでを描いた「ひとごろし」、“無償の奉仕”という晩年最大の命題をテーマに著者の人間肯定がみごとに定着した「裏の木戸はあいている」をはじめ、戦前の作品から最晩年の表題作まで、“武家もの”“岡場所もの”“こっけいもの”等々の代表的短編10編を収める。

ながい坂 (1966年)

憎む者は憎め。俺は俺の道を歩いてやる。徒士組の子に生まれた阿部小三郎は、幼少期に身分の差ゆえに受けた屈辱に深い憤りを覚え、人間として目覚める。その口惜しさをバネに文武に励み成長した小三郎は、名を三浦主水正と改め、藩中でも異例の抜擢を受ける。藩主・飛騨守昌治が計画した大堰堤工事の責任者として、主水正は様々な妨害にも屈せず完成を目指し邁進する。

あとのない仮名(1966年6月)

江戸で五指に入る植木職でありながら、妻とのささいな感情の行き違いがもとで、職を捨て、妻子も捨てて遊蕩にふける男の寒々とした内面を虚無的な筆致で描いて、周五郎文学に特異な位置を占める最晩年の傑作「あとのない仮名」、夫婦の変らぬ愛情を、枯死するまで色を変えない竹柏に託した武家ものの好編「竹柏記」ほか、「主計は忙しい」「桑の木物語」「しづやしづ」など、全八編を収める。

おごそかな渇き(1967年1月)

長年対面しつづけた宗教的課題を取り上げ、“現代の聖書”として世に問うべく構想を練りながらも絶筆となった現代小説「おごそかな渇き」。ほかに“下町もの”の傑作「かあちゃん」「将監さまの細みち」「鶴は帰りぬ」、“武家もの”の名品「紅梅月毛」「野分」「蕭々十三年」、“こっけいもの”の「雨あがる」、“メルヘン調の「あだこ」「もののけ」と、周五郎文学のさまざまな魅力を一冊に収めた。

泣き言はいわない(1994年10月)

つねに弱い者の側に立ち、世間の権威に背を向けた立場から独自の文学世界を切り開いた山本周五郎。人間の“生”を真正面から肯定し、真摯に生きることの尊さを力説して、今なお多くの読者の魂をゆさぶり続ける。その全著作より、人間の真実を追い求めた著者ならではの、重みと暗示をたたえた心にしみる言葉455を抽出。人生に迷う老若男女に、生きる勇気と指針を与えてくれる名言集。

酒みずく・語る事なし(1994年11月)

酒びたりになるほかはないほどに己れを追い詰めて、創作に励む姿を刻んだ「酒みずく」。晴れがましいことの嫌いだった母のただひとつの思い出を綴る「語る事なし」。“曲軒”の真骨頂をしめす「直木三十五賞『辞退のこと』」。作家的信念を力強く述べた「小説の効用」など。エッセイのほかに、対談・インタビューをまじえて周五郎の人生観・文学観を総覧する。『小説の効用・青べか日記』改題。

文豪ナビ 山本周五郎(2004年12月)

山本周五郎 戦中日記 (2011年12月)

「樅の木は残った」「赤ひげ診療譚」「さぶ」などで知られる昭和の文豪・山本周五郎。本書は、現在確認されている五冊の日記帳より、第二次世界大戦を迎えた一九四一年十二月八日から、戦中の最後の記述である一九四五年二月四日までの全文を一挙に収録。戦時下という閉塞した状況のなか、国民として、作家として、そして家族の大黒柱として、周五郎はどう生きたか―――。「曲軒」と称された文豪の素顔に迫る、未公開部分を含む第一級の昭和史資料。待望の文庫化!

山本周五郎 愛妻日記(2013年3月)

山本周五郎名品館I おたふく(2018年4月)

没後50年、いまもなお読み継がれる巨匠の傑作短篇から、沢木耕太郎が選び抜いた名品。山本周五郎の世界へ誘う格好の入門書であり、その作家的本質と高みを知ることができる傑作短篇集の決定版!

生涯、膨大な数の短篇を遺した山本周五郎。その大半がいまだに読み継がれ、多くの読者に愛され、また後進の作家たちに多大な影響を与え続けている。

市井に生きる庶民の哀歓、弱き者の意地、男と女の不思議など、特に時代小説に傑作が多く、その数も膨大なものがある。

山本周五郎作品に深く傾倒する沢木耕太郎氏が独自の視点と切り口で4巻36篇を選び、各巻の末尾に斬新かつ詳細な解説エッセイを執筆。第1巻は「一丁目一番地のひと」と題して、周五郎作品に登場する女性像を分析する。

  • 「松の花」
  • 「おさん」
  • 「ちゃん」
  • 「あだこ」
  • 「晩秋」
  • 「おたふく」
  • 「菊千代抄」
  • 「その木戸を通って」
  • 「雨あがる」

著作権法の変更直前に権利が失効したためか、作品の復刊が相次ぎました。

全集や作品集などでしか読めなかった作品が文庫にまとめられています。

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