ゴールデンスランバー(伊坂幸太郎)のあらすじ(ネタバレなし)・感想

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俺はどうなってしまった? 一体何が起こっている? 首相暗殺の濡れ衣を着せられた男は、国家的陰謀から逃げ切れるのか? 二年ぶり千枚の書き下ろし大作。

ゴールデンスランバーの作品情報

タイトル
ゴールデンスランバー
著者
伊坂幸太郎
形式
小説
ジャンル
ミステリー
ハードボイルド
執筆国
日本
版元
新潮社
初出
書き下ろし
刊行情報
新潮文庫
受賞歴
第5回本屋大賞
第21回山本周五郎賞

ゴールデンスランバーのあらすじ(ネタバレなし)

仙台で金田首相の凱旋パレードが行われている、ちょうどその時、青柳雅春は、旧友の森田森吾に、何年かぶりで呼び出されていた。昔話をしたいわけでもないようで、森田の様子はどこかおかしい。訝る青柳に、森田は「おまえは、陥れられている。今も、その最中だ」「金田はパレード中に暗殺される」「逃げろ!オズワルドにされるぞ」と、鬼気迫る調子で訴えた。と、遠くで爆音がし、折しも現れた警官は、青柳に向かって拳銃を構えた-。精緻極まる伏線、忘れがたい会話、構築度の高い物語世界-、伊坂幸太郎のエッセンスを濃密にちりばめた、現時点での集大成。

作者

伊坂 幸太郎 いさか・こうたろう(1971年5月25日 – )

小説家。千葉県松戸市出身。東北大学法学部卒業。大学卒業後、システムエンジニアとして働くかたわら文学賞に応募し、2000年『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。『アヒルと鴨のコインロッカー』が第25回吉川英治文学新人賞を受賞。『ゴールデンスランバー』で本屋大賞、山本周五郎賞を受賞。

ゴールデンスランバーの刊行情報

映画『ゴールデンスランバー

映画『ゴールデンスランバー』2010年1月30日

監督:中村義洋、出演:堺雅人、竹内結子、吉岡秀隆、濱田岳

映画『ゴールデンスランバー』韓国、2018年

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ゴールデンスランバーの登場人物

青柳雅春(あおやぎ まさはる)
本作の主人公。数ヶ月前まで宅配便の配達ドライバーをしていたが、現在は退職しており失業保険で生活している。数年前、当時のトップアイドルであった凛香を暴漢から助け出したことがあり、一躍時の人となった。金田首相暗殺の濡れ衣を着せられ、逃亡の身となる。

森田森吾(もりた しんご)
青柳雅春の学生時代の友人。「森の声が聞こえる」と冗談混じりながらも、観察力に基づく鋭い洞察を示す。久し振りに再会した雅春に、彼が巨大な陰謀に巻き込まれていることを伝える。

金田貞義(かねだ さだよし)
総理大臣。今回の首相暗殺事件の被害者となる。50歳と若く聡明な人物で、国民からの人気も高い。

樋口晴子(ひぐち はるこ)
青柳雅春の大学時代の恋人。今は別の男性と結婚し、七美という4歳の娘がいる。

小野一夫(おの かずお)
青柳雅春が学生時代に所属していたサークルの後輩。逃亡中の雅春に手を貸す。

岩崎英二郎(いわさき えいじろう)
青柳雅春が勤めていた宅配会社の従業員。当時、新人だった雅春に宅配のいろはを教えた。

ゴールデンスランバーの感想・解説・評価

別れを描いた伊坂幸太郎の代表作

上の曲はThe Beatlesの『GoldenSlumber』です。

この曲は伊坂幸太郎著『ゴールデンスランバー』の中で取り上げられた一曲です。「黄金のまどろみ」と訳されるんですが、伊坂がなぜ本書の中でこの一曲をとり上げ、題名にまでしたのか。本作は、首相暗殺の疑いをかけられた男が追っ手から逃げる数日間及び、前後数十年の関係者の人生を描いたものですが、その到底穏やかとは言えない内容とこの曲は一見いささか不適であるようにさえ思えます。 

しかし楽曲を聴くと、とり上げた理由が分かったような気がしました。

首相暗殺の疑いをかけられた男が生きて行くには、文字通り別人になって生活するしかありません。そうなれば、両親はもちろん交友関係にあった人物とは会えなくなってしまうことは明白です。

または、故郷を離れ、職も捨て、全く知らない土地で暮らして行くしかありません。電話やメールでの連絡も取れないことでしょう。(作中では男を捕まえるという名目で傍受が行われていました。)そうなれば二度とつながりを持つことがなくなってしまいます。

伊坂はそんな「別れることの悲しさ」を描きたかったのではないでしょうか?携帯電話やパソコンが普及した昨今、転校や引っ越しで離ればなれになったとしてもメールや電話で連絡をとることは容易です。そんな現代だからこその別れの悲しさなのです。

そう考えると、「よくできました止まり」だった仲の樋口晴子、車を爆破された森田森吾、その他の主人公を助けようとあるいは逃がそうと行動した者たちが愛おしげに思えてきます。

伊坂が本作で描きたかったこと、それは一人の男の逃亡劇やプライバシー保護の重要性も含まれるでしょう。

ですが、伊坂幸太郎は『魔王』のあとがきで「政治や憲法について描きたかったのではない」と綴っていました。

その伊坂が本作で描こうとしたのは「別れ」という、人が人生の中で幾度となく経験する「悲しさ」なのです。そう考えるならば、本作の登場人物がことごとく離れていってしまうことにも説明がつきます。

伊坂幸太郎の変化を示した作品

読了後、僕は作家が変わってしまったような一種の淋しさを覚えました。『重力ピエロ』『アヒルと鴨のコインロッカー』『チルドレン』で感じた楽しさや、おもしろい小説を読めたうれしさがなかったように思ったからです。

しかし、伊坂幸太郎はインタビューの中で、単純な勧善懲悪を書くことへの違和感を口にしていました。

実際の世の中は複雑で、事件が起きたときにスッキリとした幕切れを迎えることはそうそうないというのです。たとえ犯人が捕まったとしても被害者は被害者のままですし、不満や怒り、やりきれない思いは残ります。

このあと伊坂幸太郎はしばらく「書きたかったもの」を書くようになり、作風に変化が訪れます。いわば伊坂幸太郎の第2部が始まるわけですが、本作はその分岐点に書かれた小説になっています。

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